First Wave
Material Waves(マテリアルウェイブス)は「陶磁器×異素材」「工業×工芸」という観点から一つのプロダクトを考えていくことを通じ、新しい波(可能性)を追求していくプロジェクトです。
第1弾である「輪光(りんこう)」は、石川県を代表する竹工芸作家・榎本千冬(えのもとちふゆ)氏をお迎えし、竹工芸の技法の一つである輪弧(りんこ)編みで描かれた繊細で美しい網目から溢れる光と影のコントラストと白く輝くNIKKO FINE BONE CHINAの透明感が融合したものになります。
竹と陶磁器、異素材である二つのマテリアルの特徴をどのようにして掛け合わせていったのか。榎本氏と当社デザイナー佐久間のお二人にお話を伺っていきます。
榎本 千冬 ENOMOTO CHIFUYU
数十種類ある竹工芸の編み方の中でも基本的な編みの一つである麻ノ葉編(あさのはあみ)を最も得意としている。
代表作は、「麻ノ葉編六角箱」「花籠/傘徳利」。
ニューヨーク・ジャパンソサイティにて竹工芸の実演と講演、文化庁在外研修員としてドイツにて柳工芸を研修。
日本工芸会正会員
石川県輪島漆芸技術研修所講師
https://www.enomoto-chifuyu.net/
「麻ノ葉編六角箱」
竹では珍しい箱組(インロー式)の作品。制作期間約2ヶ月。
「花籠/傘徳利」
古備前の傘徳利の形状からインスパイアされて制作した作品。一部に漆も使われている。制作期間約2ヶ月。
素材 -BAMBOO-
-榎本千冬氏(以下、榎本氏)
竹を素材として使用する場合、30~50年、長ければ100年使える品質でなければなりません。
竹は、植物なので扱いが厄介で手間がかかる素材。柔らかさ、硬さ、曲げやすさも、一本一本に違いがあります。
竹は伐採したものをそのまま使う事はできず、伐採後に油抜きと乾燥をして一般的に白竹と呼ばれているものにします。
油抜きは、乾式と湿式があり、乾式は、火で炙って出てきた油を布で拭きとります。湿式は、少量の苛性ソーダを入れたお湯で竹を10分ほど茹で、浮き出た油を布で拭きとります。
油抜きをすると、青い竹が黄緑色に変化します。
その後、天日で半月から1ヶ月程度、乾燥させると白竹と呼ばれているものになり、変質もしにくく品質が安定します。
輪光は日本古来の丈夫で比較的扱いやすい真竹(福岡県産)を湿式で油抜きしたものを使っています。
竹工芸 -BAMBOO CRAFT-
-榎本氏
基本的な4種類くらいの道具を使って自然にある素材を使い、作家の技術で加工して仕上げていきます。
工芸の中で一番原始的な仕事であり、単純な仕事だから作った人の技術が出てくるものです。
開発秘話 -THE STORIES BEHIND THE PRODUCT-
-ニッコー株式会社 デザイン室 佐久間 和(以下、佐久間)
繊細さと実用的に使える竹の幅や厚みを榎本氏が0.1mm単位で試行錯誤し、見た目と強度のバランスを考えながら何度も試作を繰り返しました。NIKKO FINE BONE CHINAのファインな質感と竹の素朴な質感とのバランスは編み方や竹幅で見え方が大きく変わるところが一番気を使ったところです。
NIKKO FINE BONE CHINAは元々薄いものですが、竹を編み込む場合はフチは薄いほど接合面が美しくなります。そのため最初はボーンチャイナの生素地を一つ一つ手加工でフチを限界まで薄くするところから始まりました。結果、通常の食器では作らないフチの薄さを追求し実現しました。そうすることでボーンチャイナと竹がしっかりと噛み合わせることが可能となりました。
輪光の試作品
輪光 -RINKOU-
-佐久間
竹工芸の技法の一つである輪弧編(りんこあみ)が、今回のプロダクトに使われています。NIKKO FINE BONE CHINAの特徴でもある透光性と竹工芸の輪弧編から「輪光(りんこう)」と名付けました。
このプロダクトのために新たに設計されたほぼフラットな17cmプレートに竹を編み込んでいます。竹の部分の大きさが異なる、27cmプレートと30cmプレートの2サイズ展開です。
竹は、しなやかさ・強じんさを持ち軽いうえに丈夫です。水にも強いため、汚れた場合は水洗いして乾燥させると長い年月使用にも耐えられます。ご使用後は水洗いし、水分をよく拭き取ってから風通しの良いところで乾燥させてください。自然素材と伝統工芸の技が編み出す機能的で美しい竹製品の魅力を是非生活の中で味わってください。
竹工芸×NIKKO -BAMBOO CRAFT meets NIKKO-
-榎本氏
非常に面白い試みだと感じました。今までにないことなので難しさはありますが分野を超えた取り組みを定着させるのであればコツコツと努力をしながら色んな試みをしていかないとなりません。他素材との組み合わせで竹ってこんなにいいものなのだと感じてもらいたいです。
-佐久間
一本の竹から部材を作り手作業で編み込んでいく竹工芸の世界感に触れることで、工業製品では作り出せない温かみや経年変化を楽しむ時間の重要性を今回のプロジェクトを通じて感じることができました。
竹の素材の特徴を活かしながら、図面などもない状態から榎本氏の頭の中にあるイメージを形にして編み上げられた輪光はとても美しく、違う素材でもお互いに丁寧に作られたものだからこそ、新たな価値観が生まれたのだと思います。
素材の波 新しい可能性 -Material Waves-
「輪光」は竹と陶磁器の異なる素材で構成されています。しかしながら、輪弧編で構成された竹工芸とNIKKO FINE BONE CHINAで構成された陶磁器が馴染んで見えるのは異素材でありながら光の通り方が似ているからなのかもしれません。
榎本氏が当社の透明感のある陶磁器に合うように調整を重ねてこられたことが試作品から読み取れます。そして実際の使用シーンを想定し、陶磁器の厚みや大きさを計算していった佐久間デザイナーの感覚と編み方の微調整を繰り返した榎本氏の感覚が絶妙なバランスで重なり合いFirst Wave『輪光』という長く慈しむことのできる器を生み出すことができました。今後もMaterial Wavesの取り組みを通じて、新たな素材で新たな波を生み出してまいります。